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67巻1号 >

Please use this identifier to cite or link to this item: http://hdl.handle.net/11266/6529

Title: ヒックス『賃金の理論』の再検討(2) 雇用の応用理論: 格差拡大の要因に関する仮説
Other Titles: Reappraisal of Hicks’s The Theory of Wages : Part 2. Applied Theory
Authors: 小畑, 二郎
Obata, Jiro
Keywords: ジョン・ヒックス
賃金の理論
搾取と失業の原因
労働節約的発明
資本節約的発明
技術的進歩と格差拡大仮説
Issue Date: 28-Jul-2017
Publisher: 立正大学経済学会
Abstract: 本稿では,労働市場の均衡理論に関連する前号の検討をふまえて,雇用の応用理論として,労働市場に関連する格差問題の解明と,貨幣・資本理論へと発展するヒックス経済学に関する学説史的な検討を試みる. 労働市場の均衡条件は,ヒックス理論の解釈によれば,次の3 つの条件に要約される.すなわち,(1)同じ種類の労働に対してすべて同一の賃金が支払われること,(2)賃金の大きさが労働の限界純生産物の価値に等しくされること,(3)賃金と利潤の比率が労働と資本の限界純生産力の比率に等しくされること,すなわち労働と資本との間の代替の弾力性が1 に等しくされること,以上の3 つの条件であった. 本稿では,これらの3 つの条件を外した場合に,どのような変化が理論的に想定されるかということから研究を始める.実際の労働市場に関して,3 つの均衡条件がすべて整っていることを想定することは,非現実的である.なぜなら,(1)人々の労働能力には差異があるために,同一労働・同一賃金の原則を実現するためには,個々人の多様性を無視するような分配に関する何らかの強制が働かなくてはならない.さもなければ,個々人の間に賃金格差が成立するであろう.(2)自由な労働の移動や職業選択に対しては,独占や移動費用,不確実性などの障害があるため,厳密に労働の限界生産力に等しい賃金率が成立することはめったにない.したがって,そこから労働の「搾取」または失業が発生する.(3)資本主義経済においては,科学技術の発展に伴う革新が絶えず推進されてきたために,新しい生産方法に移行する過程では,資本の労働に対する代替の弾力性は,1 よりも大きくされなければならない.これらは,すべて労働市場の特殊性(「労働力商品の特殊性」)によるものであった. このような労働市場の特殊性の理解をふまえて,本稿では,そのような条件の変化が,①労働の搾取,②失業,③技術革新が資本と労働との間の分配に対して与える影響について,実際の労働市場に即して検討する.そして,それらの変化 が労働市場に関連する所得格差に対して如何なる効果をもたらすかについて検討する. そのような検討の結果,(1)と(2)の均衡条件がないことが搾取や失業の原因となり,労働市場に関連する所得格差の原因にもなっていることについて確認されるであろう.しかし,そのような原因が1980 年代以降に特別に大きく作用するようになってきたということはできない.これらに対して,技術進歩に伴って,(3)の条件が満たされなくなっていることが,近年の先進国経済における所得格差拡大の有力な要因となっていることが推論される.すなわち,低成長経済下で産出量がさして大きくならないまま,労働節約的な技術革新が進められてきていることの中に,近年の一部の先進国経済において所得格差が再び広がってきていることの基礎的な要因を求めるべきではないかという仮説が,ヒックスの賃金理論の応用から引き出されるのである. ただし,このような仮説は,労働市場に関する比較静学的な推測の結果として得られたものである.科学技術の発展に伴う生産力の増大による労働市場に対する影響については,さらに時間的要素を取り入れた技術革新過程の動態的分析に よって明らかにされなければならない.このように理解するならば,初期の静学的な研究に対して,時間的な要素を尊重する後期ヒックスの研究へと至る筋道は,すでに『賃金の理論』によって準備されていたという学説史的な解釈が成立する.
URI: http://hdl.handle.net/11266/6529
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